1980年のSuper Realシリーズこそ、コピーからクローンへの転換点と言えるだろう。数年間の研鑽のたまものである。
明確に年代を設定して、細部までコピーしていく。1980年のカタログではSE・TE800以上がSuper Real、それ以下が前年を引き継ぎSuper Power、Spacey Soundとなっている(TEはSpacey Soundのみ)。
特に、翌1981年のカタログではこれまで以上に「いかにヴィンテージモデルを検証し、それを当時の技術で蘇らせたのか」の説明にページが割かれているが特徴だ。「リアルの超越」という製品名は、「ジャパン・ヴィンテージ」と銘打った、その思想と同一だろう。フジゲンビルダーの意地、誇りを感じる。
この80年と81年の差は、中でもストラトキャスターのコピーモデル市場において決定的に大きい。その意味は80年製のトーカイSTとSuper Realを比べるとよくわかるはずだ。
コピー楽器群のなかで、ずば抜けた存在感を放っていたのがグレコとトーカイであることは間違いない。トーカイは、レスポールにおいては驚異的な執念を見せ、レギュラー製品ではLS120を頂点としたバーストクローンの生産を行っていた。フォークロックトリオ「ガロ」のメンバーTommyのバーストを採寸して、1978年からその完璧なコピーとしてLSシリーズを作っていったことで知られる。
トーカイはSTシリーズ(Springy Sound)やTEシリーズ(Breezy Sound)でもヴィンテージの再現を行なっていた。だが、コピーとしての完成度は、1980年までは、もう一歩足りない部分があった(60年代モデルのネックにスカンクストライプがある、など)。LSで見せた情熱とは温度差がある。
それが、1981年のモデルでは足りない一歩を補い、リアルなヴィンテージコピーを出してきた。サウンドにおいても、リッチな中域が特徴的なヴィンテージトーン。グレコSuper Realの完成度に奮起された部分があることは想像に難くない。これはまた別の物語があるわけだが、82年のフェンダー・ジャパンの誕生と、先にも触れた敗訴によるトーカイの苦境により失われたものもまた、小さくなかったはずだ。
私は1982年のトーカイST50(スパロゴ)を使っているが、存外悪くない、というより気に入っている。ネックの感触もよく、なにより3.4kgという軽い個体であることからも、手放さないでいる。
またまた余談めくが、そもそも、日本人の(職人的な)物作りにおいて「形(かた)」を極めることは、ひとつの理想と言えるものだ。カタチを変化させてまで道具としての効率性を追い求める、という姿勢がそこにはあまり見られない(私はよく日本刀を例に話すのだが)。美と機能性がバランスした「形」を見出すと、その一つの形態を突き詰めようと努力する。その感性に、ヴィンテージコピーの極北を目指す、という目標がフィットしたのだろう。
そして、Super Realの完成度に刺激をうけたのがトーカイだけでなく、本家のフェンダーであったというわけだ。その1980年はフェンダー(CBSミュージカルインストゥルメンツ)においても、大きな分水嶺であった。
のちに振り返ると、歴史には様々な結節点(ハブ)や特異点(飛躍)が出現することがある。エレキギター/ベースの歴史においては、間違いなくこの1980年はその「点」であり、後世に影響を及ぼすことになった。