前回を受けて、ヴィンストとJVのサウンドの違いから書き始めようと思ったのだが、気になる点を見つけてしまった。ヘッド付け根の「くぼみ」だ。
JV85のストラトのヘッドの、6弦ポスト下の出っ張り部分(ネックハンガーにに掛けるあたり)を触るとくぼみがある。ちょうど、ヘッドとネックの境界線あたりで「くぼむ」というか、「ネックが太くなる始点」というか、そういうポイントがあるのだ。
これと同じものを発見したのが、グレコのSE800。1981年製のスーパーリアルシリーズの1本。それはメイプル1ピースネックの57年スタイルのモデルだったが、ヘッドやネックのぼてっとした厚みがそっくりで、やはりくぼみがあった。このくぼみがいつ消滅するのかわからないが、おそらくJV期を中心に、短期間のみ存在した、スーパーリアル=JVの紐帯と言えるものなのだ。
同じ治具を使い、同じ工程を経て作られたギター。それでいて、サウンドはグレコとフェンダージャパン 、それぞれに個性がうかがえる。だが、くぼみがなくなったときに、グレコのギターはフェンダージャパンとなり、同時にJVがまとっていたアウラも消えていったのではないだろうか。蒙古斑のように、そのくぼみがルーツを示しているように思えてならない。それゆえ「フジゲン期」としてEシリアル以降のギターが、だんだん珍重される風潮にも違和感を覚えてしまう。
しかし、端的に言ってこのくぼみはブサイクだ。ネックからヘッドにかけての丸くもったりとした感じを象徴している部分でもある。
フェルナンデスの1982年のRST50のヘッドからネックにかけての流れるような形状は美しい。光に当ててみたときに、ヘッド裏の形状がシャープに浮かび上がる。いかにも職人の仕上げの手仕事が10万円以下の価格のギターにもしっかり息づいていて、うっとりしてしまう。RST80はさらに丸みを帯び、より手作業の妙が見てとれる(いつか所有したい)。
その点、トーカイは異質だ。例えば過渡期の1981年のストラトキャスターは、ラウンド貼りのローズ指板であってもネックはVシェイプ。80年まではあったスカンクストライプがなくなっても、50年代形式のストラトをローズ指板化した、というスタンスに変化はない。日本のギターらしい「家具調」の整いの中で、コピーを目指さないトーカイのフェンダー系ギターのフォルムを形づくっている。
パリッとしたサウンドのフェルナンデスRST、すっきりとした鈴なり感のあるトーカイST。同じ、1981年〜82年に作られたコピーモデルではあるが、ネックの形状も各社の音への傾向が伝わってくる。
こんな重箱の隅を突くような差異ではあるかもしれないが、ストラトのサウンドでネックの影響を無視することはできない。丸くてぼてっとしたネックこそ、芯とガッツがあるJVサウンドの根源となっているのではないか。対照的に薄くスリムなネック(とてもコンテンポラリーな)を持つ、American Vintageの62ストラトのモダンで優しいサウンドと比較すると、この「くぼみ」の意義は無視できない、という気がしているのだ。